対症療法(重度のかゆみ、全身のかゆみ)
重度のかゆみ、全身のかゆみに対する対症療法にはしっかりとした内科治療が必要です。
重度のかゆみに対する治療方法
1) ステロイド剤
2) 抗ヒスタミン剤
3) 免疫抑制剤
それぞれ解説をしていきたいと思います。
1)ステロイド剤
犬の強いかゆみを取るにはステロイド剤がどうしても必要になってしまうことが多いです。
ステロイドとは別名、副腎皮質ホルモンと呼ばれています。
もともとは副腎という臓器で作られる糖質コルチコイドというホルモンを、人工的に化学合成したものがステロイド剤になります。
ステロイド剤は、抗炎症作用や、免疫抑制作用、抗腫瘍作用など使用する用量によりさまざまな効能が期待できるお薬です。
その中でも特にアトピー性皮膚炎など動物たちのかゆみに関してはかなり効果が高く、逆にそれ以外のかゆみ止めの薬は動物達にはあまり効果がないことも多いため、皮膚科領域の治療にはよく使用されています。
しかし元々は体の中に存在するホルモンのため、ステロイド剤を長期的に使っていくと、体の中でさまざまな副作用が出てきてしまう可能性があります。
<ステロイドの主な副作用>
① 細菌および真菌感染症
ステロイド剤は長期投与によって体の免疫力を低下させる作用があるため、本来は感染しないような細菌や真菌(かび)に感染してしまいます。
② 内臓への負担
ステロイド剤は長期投与によって、肝臓、腎臓、膵臓など重要な臓器に負担をかけます。
場合によっては命に関わる危険な状態にも発展することがあります。
③ クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
ステロイド剤は副腎皮質から出る糖質コルチコイドというホルモンを化学合成したお薬です。
そのためステロイド剤を毎日服用していると、体は自分が出しているホルモンとステロイド剤の区別がつかないため、『ホルモンが多い』と誤って認識していきます。そのうち体は本来自分自身で出すはずのホルモンを徐々に出さなくなっていき、ホルモン異常の病気に発展していきます。
クッシング症候群になると、腹部膨満(下腹部がぼってり膨らんでくること)、脱毛、多飲多尿(たくさんお水を飲み、たくさん尿をすること)などさまざま症状が出てきます。
クッシング症候群に関してはこちらのブログを参考にしてください。⇒ 症状から考える病気「多飲多尿」
④ 消化管潰瘍
ステロイド剤は胃粘膜の粘液産生を抑制し、胃腸の粘膜細胞の再生も抑制します。
そのため、胃十二指腸の潰瘍や、出血を引き起こす可能性があります。
上記以外にも、糖尿病や白内障、緑内障、骨粗しょう症など障害を受ける部位によって異なるさまざまな障害が出る可能性があります。
ちなみにステロイドはホルモン剤のため、個体差はありますが、「食欲増加」、「多飲多尿」の症状は出てくることがあります。
ただこの反応はステロイド剤を減量したり、中止することによって症状は無くなりますのでご安心ください。
<安全にステロイド剤を使用していくために行うべきこと>
① 定期的な血液検査の実施
ステロイド剤を安全に使用していくには、まず血液検査を行い、内臓の負担がないかを確かめます。
そしてステロイド剤を使用し始めた後も、定期的に血液検査をすることで見た目に出てこない体の負担を早期に発見することができます。
② 状態に応じて減量
ステロイド剤によってかゆみなどの状態がよくなってきたらステロイドの量を段階的に減らしていきます。
ステロイド剤を適切に減らしていくことによって体への長期的な負担を防ぎ、副作用を出させなくすることができます。
どうしても減量ができない子に関しては、下記のお薬を併用してもらうことによって減量を行うことができる場合もあります。
2)抗ヒスタミン剤
かゆみの元の一つであるヒスタミンの働きを抑える作用があります。
人だとある程度のかゆみを取ることはできますが、動物たちの場合は単独ではほとんど効果は期待できません。
ステロイド剤と併用することでかゆみをより取ることができることもあるため、ステロイドの減量を考えているときに補助的に与えるものと考えてもらうと良いと思います。
3)免疫抑制剤
アレルゲンに対して過剰に反応してしまうよう免疫の働きを抑制することにより、皮膚のかゆみや赤みなどを抑えます。
ステロイド剤に比べて副作用は出づらく、ステロイド剤と併用して使用することでステロイド剤の量を減らすことができます。
皮膚病に対する補助的な治療
かゆい皮膚病だけにかぎらず皮膚病全般に有効な補助的な治療をお伝えします。
1)シャンプー療法
犬の体についたさまざまなアレルゲンを取り除くために、こまめにシャンプーをしてあげることはとても有効です。
その子の皮膚に合ったシャンプー剤を使用してもらうことにより皮膚のコンディションを向上させることができます。
2)サプリメント(必須脂肪酸製品など)
皮膚を形成する栄養分を補充してもらうことで丈夫な皮膚を作り出すことができます。
⇒  減感作療法について
<参考文献>
『犬のアトピー性皮膚炎』パンフレット
<関連ブログ>
ステロイドについて詳しくお話ししています。
HOME>病気と予防医学>>かゆい皮膚病>対症療法(重度のかゆみ、全身のかゆみ)について